時間の矢

物理の未解決問題の1つに「時間の矢」という問題があります。よく出される例で説明しますと、温かい物質と冷たい物質をくっつけたとき両方が同じ温度になります。温かい物質から冷たい物質に熱が移動します。ですが、冷たい物質から温かい物質に熱が移動して温度差がぐんぐん大きくなっていくことはありません(ちょっとは冷たい物質から温かい物質に熱が移動することがありますが)。つまり「温かい物質から冷たい物質に熱が移動する」という現象は逆の現象が起きません。向きが決まっているのです。

 

物質は無数の原子でできているので、原子1つ1つの熱運動を計算すれば上記の現象は理解できるはずですが、原子の運動を決める方程式には時間の向きが「温かい物質から冷たい物質に熱が移動する」向きであるということは含まれていません。もう少し言えば、どっちの向きに進んでもOKという方程式になっています。なのに、無数の、膨大な数の原子を考えると現象が進む向きが出てきます。これは不思議です。

 

少し専門的な話をすると、これはエントロピーが絡んでいます。自然現象はエントロピーが増えるか、変わらないように起こります。温かい物質と冷たい物質の例はエントロピーが増えています。逆に、冷たい物質から温かい物質に熱が移動するとエントロピーが減るので、この現象は起こりません。

 

エントロピーが増えるような現象しか起こらないのだ」ということを信じれば、「温かい物質から冷たい物質に熱が移動する」という現象しか起きないことは納得できますが、上記のように原子1つ1つの運動を記述する方程式には向きが含まれないので、なんでだろうとなります。何が熱の移動の向き、時間の向きを決めているのか。エントロピーが増える、もしくは変わらないようにしか物事が進まないのは何故なのか。気になります。私、気になります!(えるたそ〜)