いわゆるひとつのグラビティ

僕は大学院で宇宙物理について研究していたのですが、以前両親に色々と質問されました。そのときに知ったのですが、うちの両親は「宇宙空間には重力はない」と思っていました。これについて書きたいと思います。

 

高校物理の教科書では重力は万有引力と遠心力の和と書かれています。両親は宇宙船の中で宇宙飛行士が無重力状態でフワフワ浮いてるので重力はないと思ったんだと思うのですが、実際宇宙船の中では万有引力と遠心力(宇宙船は地球の周りをグルッと回っているので遠心力がはたらきます)の和は0です。なので、高校物理での重力の定義に基づけば「重力はない」状態になります。

 

ですが、それはあくまで地球の周りをグルッと回っている宇宙船の中での話で、宇宙空間には重力はないというのは間違いです。万有引力は常にあるので、遠心力がなくなれば、例えば宇宙船が止まってしまえば、重力は0ではありません。(もう少しややこしい話をすると、遠心力は宇宙船の速さと地球からの距離によって変わるので、それらを上手く調節しないと万有引力と重力の和は0にはなりません。)

 

ここでもう1つの問題があります。重力という言葉の意味です。上記のように、高校物理の教科書では重力は万有引力と遠心力の和なのですが、大学以降は重力といえば万有引力のことなのです。純粋に物体と物体の間ではたらく力のことなのです。遠心力抜きの混じりっけなしの(なんじゃそりゃ)。この言葉の使い方では「宇宙空間には重力はない」というのはどんなときでもハズレです。

 

このように色々考えてみると、無重力状態という言葉は割と特殊な言葉だなと思いました。重力を万有引力だけではなく、それと遠心力の和という意味で使ってるからです。多分ほとんどの人、うちの両親も重力に遠心力が含まれているとは思っていないと思うので、「宇宙空間には重力(万有引力)がない」と思ってしまうのかなと思いました(「思う」がゲシュタルト崩壊しそうですね)。

 

ちょっとややこしい話をしてしまいましたが、僕が言いたかったことは「僕らはどこにいても宇宙に行っても地球からの万有引力を感じている」ということです。