隆慶一郎さんの歴史小説

僕はたくさんの本を読むよりは気に入った本を何度も読むタイプなので読んだ本の冊数は少なく、ジャンルも推理小説とエッセイに大きく傾いています(推理小説も何度も読みます)。なので、普通の小説を読むことは稀です。そんな僕が好きな歴史小説家が隆慶一郎さんです。

 

隆慶一郎さんの作品で有名なのは「一夢庵風流記」で、これは週刊少年ジャンプで連載されていた「花の慶次ー雲のかなたにー」の原作になっています。他に「影武者徳川家康」も週刊少年ジャンプで漫画化されていました。残念ながら途中で終わってしまいましたが。

 

隆慶一郎さんの小説との出会いは中高生の頃、駅前の本屋ででした。何か面白い本はないかなと思って並んでいる本を見ていたときに「影武者徳川家康」の文庫本が目に入りました。あらすじを読んでなんとなく面白そうだなと思ったので買って読み始めたんですが、とても面白かったです。実は徳川家康関ヶ原の戦いで暗殺されていて、その後の家康は影武者が演じていたという、ある意味荒唐無稽な小説なのですが、ちょいちょい実際の史料が出てきて妙に説得力があるんです。また、隆慶一郎さんの小説は登場人物の気持ちや行動の理由が述べられることが多く、登場人物の気持ちが分かりやすいです。さらに、出てくる人物が強い信念を持ったしっかりとした人物でかっこいいんです。「影武者徳川家康」は上中下巻の長い小説なのですが一気に読んでしまいました。

 

隆慶一郎さんの小説の中で特に好きなのは「死ぬことと見つけたり」です。佐賀鍋島藩の「葉隠」に着想を得た歴史小説ですが、思想的なものは含んでいません。主人公格の斎藤杢之助、中野求馬、牛島萬右衛門は「死人(しびと)」と呼ばれる、死すら恐れずその時々の一瞬に全力を懸ける男たちです。強い意志の力と動じない心、とてつもない行動力を感じて、とてもかっこいいです。もしかしたら少年漫画的な面白さも多分に含まれているかもしれません。物語を紡ぐ隆慶一郎さんの書き方、言葉の選び方も味があって好きです。文庫本は上下巻で、上巻の冒頭には隆慶一郎さんと「葉隠」についての随筆が書かれているんですが、この部分もかなり好きです。執筆途中で隆慶一郎さんが亡くなったので未完になっている点が残念です。

 

他にも吉原を舞台にした「吉原御免状」とその続きの「かくれさと苦界行」も面白いです。江戸時代の吉原は文化的な面も強く、太夫は歌を詠み、書や舞いを嗜む一流の文化人だったことを学んだりもしました。

 

隆慶一郎さんの小説にはどこか明るい雰囲気が終始あると思います。それは登場人物だけでなく隆慶一郎さん本人の人柄なのかもしれません。もしご興味を持たれましたら作品を読んでみてください。